
2025年7月23日
カーボンニュートラルに向けた企業の取り組み事例15選|メリットも解説
目次
1.カーボンニュートラルとは?

カーボンニュートラルとは、温室効果ガスの排出量を「実質ゼロ」にすることです。これは、企業や個人が排出する二酸化炭素(CO2)を最大限減らし、どうしても出てしまう分は植林やカーボンオフセットなどで吸収・除去することで、排出量と吸収量を均衡させる状態を指します。
地球温暖化を抑制し、持続可能な社会を実現するために不可欠なこの概念は、パリ協定で掲げられた「世界の気温上昇を1.5℃以内に抑える」という目標達成のために、国際的にも重要な取り組みとなっています。
2.カーボンニュートラルに向けた日本の方向性
日本は2050年までにカーボンニュートラルを達成することを目標に掲げています。
これは、地球温暖化対策と持続可能な社会実現に向けた重要な一歩です。
政府は、再生可能エネルギーの普及や省エネ技術の推進を強化しており、企業や自治体と連携して脱炭素社会の実現に向けた政策を進めています。具体的には、電気自動車(EV)の普及促進や再生可能エネルギー導入支援などが挙げられます。
また、日本は「グリーン成長戦略」を策定し、経済成長と環境保護の両立を目指しています。この戦略では、企業が新たな技術やビジネスモデルを開発することで、カーボンニュートラルの実現に貢献していく方針を示しています。
3.企業のカーボンニュートラル取り組み事例15選
企業が取り組みやすいカーボンニュートラルの事例を、難易度が簡単なものから順に15個まとめました。
どのような業種や規模の企業でも実践しやすい内容を意識して紹介しているので、ぜひ取り組みの参考にしてみてください。
(1)ペーパーレス化の推進
紙の使用を減らし、デジタル化を進めることで、森林資源の保護やCO2排出削減に貢献します。
(2)省エネ機器の導入
LED照明や省エネ型エアコンなど、エネルギー効率の高い機器を導入することで、電力消費を削減します。
(3)エコ通勤の推奨
従業員に公共交通機関や自転車通勤を推奨し、通勤時のCO2排出を削減します。
(4)リサイクル活動の強化
オフィス内でのゴミ分別やリサイクル活動を徹底し、廃棄物の削減を目指します。
(5)テレワークの導入
出社頻度を減らすことで、通勤に伴うエネルギー消費やCO2排出を抑えます。
(6)グリーン電力の利用
再生可能エネルギー由来の電力を契約し、事業活動でのCO2排出を削減します。
(7)エコ製品の使用
環境に配慮した文房具や消耗品を選ぶことで、間接的にカーボンニュートラルに貢献します。
(8)社内の温度管理
冷暖房の設定温度を適切に管理し、エネルギー消費を抑えます。
(9)植樹活動への参加
地域の植樹活動に参加し、CO2吸収源を増やす取り組みを行います。
(10)カーボンオフセットの購入
自社で排出したCO2を相殺するために、カーボンオフセットを購入します。
(11)サプライチェーンの見直し
取引先や仕入れ先の環境負荷を考慮し、持続可能なサプライチェーンを構築します。
(12)エコドライブの実施
社用車の運転時にエコドライブを徹底し、燃料消費を抑えます。
(13)再生可能エネルギー設備の導入
太陽光発電や風力発電設備を導入し、自社で再生可能エネルギーを生産します。
(14)製品やサービスの環境配慮
自社製品やサービスのライフサイクル全体での環境負荷を削減する取り組みを行います。
(15)ゼロエミッション目標の設定
長期的な目標として、事業活動全体でのCO2排出をゼロにする計画を策定します。
これらの取り組みは、企業の規模や業種に応じて柔軟に実施できます。まずは簡単な取り組みから始め、徐々に難易度の高い施策に移行することで、無理なくカーボンニュートラルを目指すことが可能です。
4.企業がカーボンニュートラルに取り組むメリット
企業がカーボンニュートラルに取り組むメリットを業種ごとにご紹介します。
業種でメリットに違いがあるので、当てはまる業種を確認して参考にして見てください。
(1)製造業
・コスト削減
エネルギー効率を高めたり、廃棄物を削減することで運用コストを削減できます。
・競争力の向上
環境に配慮した製品を提供することで、環境意識の高い顧客からの信頼を得られます。
・顧客要求への対応
カーボンニュートラルへの対応は、今や国内外のクライアントから強く求められます。特に海外クライアントは、排出データ開示や削減目標、特定規制への準拠を取引継続の条件とすることも多くあります。
・規制対応
排出規制の強化に先んじて対応することで、罰則や追加コストのリスクを軽減できます。
(2)建設業
・入札への加点
カーボンニュートラルへの取り組みが入札の加点になる地域もあります。
・ブランド価値の向上
環境配慮型の建築物(例: ゼロエネルギービル)を提供することで、顧客や自治体からの評価が高まります。
・新たなビジネスチャンス
再生可能エネルギーや省エネ技術を活用したプロジェクトの需要が増加します。
・長期的なコスト削減
持続可能な建材やエネルギー効率の高い設計を採用することで、建物の運用コストを削減できます。
(3)サービス業
・顧客満足度の向上
環境に配慮したサービス(例: エコフレンドリーな宿泊施設や飲食店)を提供することで、顧客の満足度が向上します。
・コスト削減
エネルギー効率化や廃棄物削減により、運営コストを削減できます。
・ブランド価値の向上
環境意識の高い取り組みを行うことで、企業イメージが向上します。
(4)IT・通信業
・エネルギー効率の向上
データセンターやオフィスのエネルギー効率を改善することで、運用コストを削減できます。
・新たなサービスの提供
環境データの管理や分析を支援するソリューションを提供することで、新たな収益源を確保できます。
・投資家からの評価向上
環境に配慮した取り組みを行うことで、ESG投資家からの評価が高まります。
どの業種でも、カーボンニュートラルへの取り組みはコスト削減や規制対応だけでなく、顧客や投資家からの信頼向上、ブランド価値の向上といった多くのメリットをもたらします。企業規模や業種に関わらず、できることから始めることで、持続可能な未来の実現に貢献できます。
5.カーボンニュートラルに取り組むことのデメリットはあるのか?
カーボンニュートラルに取り組むことでのデメリットとして、以下のような点が挙げられます。ただし、これらは長期的な視点や工夫次第で克服可能な場合も多いです。
・初期投資の負担
新技術や設備の導入、再生可能エネルギーへの転換などに多額の費用がかかる場合があります。
・事業構造変革の影響
化石燃料依存型の事業からの転換や縮小により、事業再編や雇用調整が必要となる可能性があります。
・コスト競争力の低下
自社のみが先行した場合、製品やサービスの価格競争において不利になる場合があります。
カーボンニュートラルへの取り組みには、初期投資や業務プロセスの変更など、短期的な負担が伴うことがあります。しかし、これらのデメリットは、長期的なコスト削減やブランド価値の向上、規制対応のリスク軽減といったメリットによって相殺される可能性があります。企業は、自社の状況に応じた計画を立て、段階的に取り組むことで、これらの課題を克服していくことが重要です。
6.自治体や団体のカーボンニュートラルへの働きかけ
カーボンニュートラルの実現に向けて、自治体や団体も積極的に取り組んでいます。地域ごとの特性を活かした施策や、企業と連携した取り組みが進められています。ここでは、自治体や団体の具体的な働きかけや、認定団体の事例をご紹介します。
■自治体の取り組み
自治体は、地域全体でカーボンニュートラルを目指すための政策を打ち出しています。
例えば、再生可能エネルギーの導入支援や、公共交通機関の電動化、エコ住宅の普及促進などが挙げられます。
また、地域の企業や住民と協力し、地域全体でのCO2削減を目指す「ゼロカーボンシティ宣言」を行う自治体も増えています。
事例1:東京都
東京都は「ゼロエミッション東京戦略」を掲げ、2030年までに温室効果ガスを50%削減する目標を設定しています。再生可能エネルギーの利用拡大や、建物の省エネ化を推進しています。
事例2:横浜市
横浜市は「横浜市カーボンニュートラル2050」を目指し、地域の企業や市民と連携した取り組みを進めています。特に、太陽光発電の普及や、エコカーの導入支援に力を入れています。
事例3:京都市
京都市は、「きょうと地球温暖化対策認証制度」を実施し、温室効果ガス排出量削減の自主的な目標設定と取り組みを行う事業者を認証しています。認証された事業者は、市の広報媒体での紹介や融資制度における優遇措置を受けられるメリットがあります。
■団体の働きかけ
企業や自治体を支援する団体も、カーボンニュートラルの実現に向けた重要な役割を果たしています。これらの団体は、情報提供や技術支援、認定制度の運用を通じて、取り組みを後押ししています。
事例4:日本気候リーダーズ・パートナーシップ(JCLP)
JCLPは、日本を代表する企業が連携し、脱炭素社会の実現を目指すための情報共有や政策提言を行う団体です。特に、RE100(事業活動で消費する電力を100%再生可能エネルギーで賄うことを目指す国際イニシアチブ) や CDP(企業や都市の環境情報開示を求める国際NPO) といった国際的なイニシアチブとの連携を強く推進しています。JCLPは、日本企業がこれらのグローバルな目標に参加し、達成するための情報提供、ノウハウ共有、および政策提言を行うことで、再生可能エネルギーの導入加速や、透明性の高い脱炭素経営の推進を強力にサポートしています。。
事例5:環境省「エコアクション21」
環境省が策定・運用する「エコアクション21」は、中小企業を含む幅広い事業者向けに、環境への取り組みを自主的に行うためのガイドラインと、それに基づく認証・登録制度を提供するものです。企業や団体は、PDCAサイクル(計画・実行・評価・改善)に沿って環境活動を進めることで、環境負荷を削減しながら、持続可能な経営を実現できます。この制度は、企業の環境経営を「見える化」し、信頼性を高める上で有効なツールとなっています。
■認定団体の紹介
カーボンニュートラルに向けた取り組みを支援する認定団体も存在します。これらの団体は、企業や自治体が具体的な行動を起こすための基盤を提供しています。
事例6:ゼロカーボン認定制度
自治体や企業がカーボンニュートラルを目指す取り組みを評価し、認定する制度です。
グリーン購入ネットワーク(GPN)
環境に配慮した製品やサービスの普及を目指す団体で、企業の調達活動を支援しています。
事例7:SBTi(科学的根拠に基づく目標設定を支援する国際イニシアチブ)
企業の温室効果ガス排出量削減目標が、パリ協定の「世界の気温上昇を産業革命前と比較して2℃を十分に下回る水準に抑え、1.5℃に抑える努力をする」という目標達成に貢献するものであることを、科学的根拠に基づいて認定する国際的な取り組みです。さらに、ISO規格でも脱炭素に向けた取り組みが進んでおり、温室効果ガス排出量の測定や報告を規定するISO 14064や、エネルギーマネジメントシステムを規定するISO 50001などが注目されています。SBTにコミットし、これらのISO規格を活用することで、企業は脱炭素経営への強い意志と具体的な行動を示すことができます。
このように、自治体や団体の働きかけは、カーボンニュートラルの実現に向けた重要な要素です。地域や業界ごとの特性を活かしながら、企業や住民と連携することで、より効果的な取り組みが可能になります。これらは一部の事例ですが、活動に参加することで、企業は地域社会とのつながりを深め、持続可能な未来の実現に貢献することができます。
まとめ
ここまで、企業の先進的なカーボンニュートラル取り組み事例と、その多様なメリットを見てきました。各企業が特色を活かし、持続可能な社会実現へ動く姿は示唆に富みます。道のりは平坦ではないものの、これらの取り組みはコスト削減や企業イメージ向上、さらには入札での優位性確保や顧客要求への対応といった大きな果実をもたらします。地球規模の課題に対し、個々の主体的な行動が連鎖し、大きな潮流となることで未来は開かれます。カーボンニュートラルへの取り組みを通じて、共に持続可能な社会の実現へ歩んでいきましょう。